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みなさん、こんにちは!メイプル会計事務所・南伸一公認会計士税理士事務所のみなみです。
前回まででispaceの貸借対照表、損益計算書を分析しましたので、今回はキャッシュ・フロー計算書を見ていきます。
なお、当該記事を書いている時点で最新の2024年3月期の財務諸表(決算短信)を用います。財務諸表の出典は以下の通りです。
キャッシュ・フロー計算書
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローの最終金額は△5,024,543千円ですが、営業活動によるキャッシュ・フローの小計の金額は△8,453,168千円となっています。両者の相違は小計の下にある「保険金の受取額3,793,660千円」の影響です。
前回の損益計算書の分析でも出てきましたが、月面着陸失敗により三井住友海上から38億円の保険金を受け取っていました。この保険金をキャッシュで受け取ったものが計上されているのです。
キャッシュ・フロー計算書の基礎的な話ですが、営業活動によるキャッシュ・フローの区分には、営業活動によるものの他に営業活動でもなく、投資活動でもなく、財務活動にも当てはまらない「その他の項目」というものも計上されます。
営業活動によるキャッシュ・フローの区分のうち小計のところまでが、いわゆる営業活動によるものであって、小計以下が「その他」ということになります。つまり、純粋な意味での営業活動によるキャッシュ・フローは小計の△8,453,168千円であり、大きなキャッシュ・アウトが生じています。これを保険金の受取りで補った結果、最終的な営業活動によるキャッシュ・フローが△5,024,543千円になるということです。
保険金があったことでキャッシュ・アウトは減少しましたが、それでも多額の資金が流出していることがわかります。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動によるキャッシュ・フローは、△2,062,916千円となっています。内訳のうち「有形固定資産の取得による支出」が△2,022,942千円となっており、大半を占めています。
さらに貸借対照表を見ると、前期末に450千円だった建設仮勘定が1,913,944千円に急増しているので、投資活動によるキャッシュ・アウトのほとんどが、建設仮勘定に計上されていることがわかります。推測ですが、これが次回打ち上げの際に使われるランダーではないでしょうか。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動によるキャッシュ・フローは20,366,898千円となっています。
内訳の中で最も大きな増加は「株式の発行による収入」が14,822,528千円となっているので、これが財務活動によるキャッシュ・フローの主たる要因といえます。
このシリーズ第1回の貸借対照表の分析の記事でも触れた通り、当期中に東京証券取引所グロース市場に上場を果たし、さらに2024年3月に海外向けに新株を発行した結果、「株式発行による収入」が増加しているわけです。
現金及び現金同等物の増減額
営業活動、投資活動、財務活動の結果、当期は現金及び現金同等物が13,450,957千円増加しています。
営業活動、投資活動のマイナスを財務活動で一気にプラスにしていますが、大きな要因はやはり上場や海外に対する株式の新規発行分です。
キャッシュ・フローのタイプ分析
キャッシュ・フローのタイプ分析では、営業活動、投資活動、財務活動のそれぞれがプラスかマイナスかの組み合わせによって、会社がどのような状態であるかを明らかにすることができます。例えば、
- 営業活動によるキャッシュ・フロー;+
- 投資活動によるキャッシュ・フロー;-
- 財務活動によるキャッシュ・フロー;-
の場合は、「誰もがうらやむ優等生的な◎タイプ」です。
詳しくは、拙著「誰でもわかる決算書の読み方1年生」あるいは「ギモンから逆引き!決算書の読み方」をご覧ください。Amazonのリンクです(アフィリエイト広告を利用しています)。
では、ispaceのキャッシュ・フロー計算書のタイプ分析を行ってみましょう。 ispaceのキャッシュ・フロー計算書では、
- 営業活動によるキャッシュ・フロー;-
- 投資活動によるキャッシュ・フロー;-
- 財務活動によるキャッシュ・フロー;+
となっています。拙著の分類名でいうと「ちょっと注意が必要な△タイプ」になります。
あくまでも一般論ですが、拙著の解説文では「本業がうまくいっていないので、借入を行って新規事業などに投資していることがうかがえます。新規事業が順調にいけばよいですが、思惑が外れると一気に倒産という危険性も秘めています。」と説明しています。
ispaceの場合、主に借入ではなく株式発行によって資金調達を行っており、返済義務がない分、上記解説文の事例よりは危険性が低いといえます。ですが、思惑が外れると、すなわち今後も失敗が続くようであれば、一気に倒産とまではいかなくても、資金繰りに窮する場面は出てくる可能性があります。宇宙ビジネス+スタートアップ企業ということもあるので、どうしても不確定要素が多くなってしまいます。
キャッシュ・フロー計算書分析の結論
キャッシュ・フロー計算書から、急速な勢いでキャッシュを集めて、それを営業活動や投資活動につぎ込んでいる様子が良くわかります。
次回のミッション予定は2024年冬ごろとのことなので、まだまだ資金需要は旺盛だと思います。今後も株式の発行や借入れ等で財務活動によるキャッシュ・フローはプラスが続くでしょう。
そして、営業活動によるキャッシュ・フローがどの段階でプラスに転じるかが焦点です。今は厳しい状況ですが、1回のミッション成功で、劇的に財務3表の内容が変わるはずです。
さいごに
「宇宙ビジネスの決算書 第3回」もこれでおしまいです。第1回目から第3回目にかけてispaceの分析を行ってきた結果、ニュース報道で知るよりも、よりリアルな会社の実情を知ることができて私自身、楽しかったです。
今回は記事作成のタイミングの問題で決算短信を使って分析しましたが、有価証券報告書が公表されたら注記も充実してくるので、改めて分析してみたいと思います。そして今後、宇宙ビジネスを行っている他社の分析も行っていく予定です。引き続き、楽しみにしていただけると嬉しいです。
ispaceの分析をもって「宇宙ビジネスの決算書」season1の終了です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
追記です。今回の記事を書き上げた後、ispaceが新たに100億円の借入を実施するとのニュースが入ってきました。
三井住友銀行、みずほ銀行を中心として計7つの金融機関から7月31日に借入を実施するとの内容です。この借入が2025年3月期の決算書に大きなインパクトを与えることは間違いありません。
貸借対照表の現金預金や借入金、キャッシュ・フロー計算書の財務活動によるキャッシュ・フローの増加要因になります。そしてこの借入で得た資金をどのようなことに使っていくのか、楽しみです。これからも継続して分析していきたいと思います。