【第9回】塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告

解説コラム

みなさん、こんにちは!メイプル会計事務所・南伸一公認会計士税理士事務所のみなみです。「塾・スクール・習い事を個人事業で営んでいる方のための確定申告」のシリーズ第9回です。

第7回より、消費税の内容について解説してきました。今回が3回目となります。今回は、消費税に関する必要書類のうち、代表的なものについて説明します。

特に消費税に関しては、書面を提出していないと適用を受けようと思っている計算方法等が認められず、多額の損失を被る恐れがあるので、書面の提出はとても重要な手続きです。また、中には適用を受けようと思っている課税期間が始まる前に提出しなければならない書面もあり、注意が必要です。

① 消費税課税事業者選択届出書

代表 南
代表 南

基準期間の課税売上高1,000万円以下でも課税事業者になりたい場合に提出します!

このシリーズの第7回で解説したとおり、基本的に消費税は基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者となり、消費税の納付義務が生じます。ですから、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、インボイス制度上の適格請求書発行事業者(※)にならない限り、免税事業者となり消費税の納付義務は生じません。

(※)インボイスを発行できる事業者として登録を受けた事業者のことを言います。インボイス制度については、次回の第10回で説明いたします。

それでは、基準期間の課税売上高が1,000万円以下で免税事業者であるにもかかわらず、課税事業者になりたい場合にはどうすればよいのでしょうか?

一見すると、納付する義務がないのにわざわざ手続きをして、課税事業者になりたい人なんているのか?と思ってしまうかもしれません。確かに課税事業者になってしまうと納税義務が生じますが、逆に消費税を払いすぎていたときは、還付を受けることができるのです。言い換えると、免税事業者のままでは、消費税を払いすぎていた時に、還付を受けることができないということです。

このように、「消費税の納税義務者ではないけれども、消費税の還付を受けたい」といった場合に提出する書面が「消費税課税事業者選択届書」です。提出は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)に行うこととされています。提出期限に遅れてしまうと、還付を受けられなくなってしまうので注意が必要です。

消費税を払いすぎている状況が事前にわかる例として、固定資産の購入があります。消費税は仕入や経費の支払いだけでなく、固定資産を購入した際にも発生します。したがって、たとえば事前に多額の固定資産を購入することがわかっているのであれば、当該届出を行って課税事業者になっておけば良いということになります。

② 消費税課税事業者選択不適用届出書

代表 南
代表 南

消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった後に、免税事業者に戻りたい場合に提出します!

①の消費税課税事業者選択届出書を提出し、無事還付を受けた後の期間で、課税事業者であることをやめようとする場合(免税事業者に戻ろうとする場合)には、「消費税課税事業者選択不適用届出書」という書面を提出します。

提出は、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日まで、とされています。つまりこちらも課税事業者を選択するときと同様、免税事業者になりたい課税期間が始まる前に、事前届出が必要なので注意が必要です。

さらに、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、この書面を提出することはできません。つまり、①の書面を提出して免税事業者から課税事業者になったのであれば、少なくとも2年は免税事業者に戻ることができないということになります。2年間免税事業者に戻れないというところまで、ちゃんと考えたうえで課税事業者になるべきか否かを判断する必要があります。

実際のところ、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方が、多額の固定資産を購入するケースはあまりないのではないかと思います。塾・スクールでの固定資産と言えば、机、椅子、ホワイトボード、パソコン、コピー機、印刷機などが一般で、それほど高額ではありません。

習い事でも、たとえば楽器教室を営む方であれば、ピアノ教室での高額なピアノの購入などはあり得るかもしれませんが、弦楽器や管楽器の教室では、生徒さんが使用される楽器としてそこまで高額なものを購入することはそうそう無いでしょうからね。ですから、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方にとっては、これらの届出が必要になる機会はそれほど多くないはずです。

しかし、たとえば「教室を立て替える!」など思い切った設備投資を行う場合には必要になるケースも出てくるかも知れません。普段は免税事業者でも、「多額の設備投資があったときには消費税の還付を受けることができる制度がある」ということは知っておくと良いでしょう。

③ 消費税課税事業者届出書

代表 南
代表 南

課税事業者になったら税務署に報告する!

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えて課税事業者になった場合、税務署にその旨の書面を提出することになっています。これは、税務署側が課税事業者を把握するために必要とされるものです。この届出の際に提出する書面を、「消費税課税事業者届出書」といいます。

提出は、「事由が生じた場合、速やかに」とだけ、国税庁のホームページに記載されています。ですから、「事由が生じた場合、速やかに」提出しましょう!

なお、①の「消費税課税事業者『選択』届出書」と名前が似ていますが、全く異なる書面なので注意しましょう。

④ 消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書

代表 南
代表 南

免税事業者になった場合も、税務署に報告する!

③の書面とは逆の書面もあります。つまり、これまで課税事業者だった方が、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となったことにより免税事業者となる場合に提出する書面です。この書面を、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」といいます。

これまで漢字だらけの名称でしたが、今回はひらがな交じりで読みやすいですね。こちらも、提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」とされています。

⑤ 簡易課税制度選択届出書

代表 南
代表 南

簡易課税を選ぶなら!

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたら課税事業者になりますが、基準期間の課税売上高1,000万円超~5,000万円以下であれば、簡易課税での計算も認められていると、このシリーズ第8回で説明しました。

あくまでも簡易課税は「認められた計算方法」なので、適用するためには届出書を提出する必要があるわけです。簡易課税を適用するために提出する書面を、「消費税簡易課税制度選択届出書」といいます。

提出時期は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)とされています。こちらの書面についても事前提出が必要、という点に注意しましょう。

⑥ 簡易課税制度選択不適用届出書

代表 南
代表 南

簡易課税をやめるなら!

簡易課税制度を適用している方が、簡易課税制度の選択をやめるための書面もあります。この書面を、「簡易課税制度選択不適用届出書」といいます。

提出時期は、適用をやめようとする課税期間の初日の前日までとされています。ただし、先ほどの課税事業者を選択した場合に2年間は免税事業者には戻れないというのと同じように、簡易課税制度も、いったん選択したのであれば、基本的に2年間は簡易課税をやめることはできないことになっています。

消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合に、注意しなければならない点があります。それは、いったん消費税簡易課税制度選択届出書を提出して簡易課税を適用したのであれば、その後ある課税期間において、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えることにより、その課税期間について同制度を適用することができなくなった場合や、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となり免税事業者となった場合であっても、その後の課税期間で、基準期間の課税売上高が1,000万円超5,000万円以下となった場合は簡易課税が適用されることです。

(上記文章の取扱いをまとめると、次の通りとなります。)

タイムライン
  • STEP1
    消費税簡易課税制度選択届出書を提出

  • STEP2
    簡易課税の適用(基準期間の課税売上高が1,000万円超5,000万円以下)
  • STEP3
    基準期間の課税売上高が5,000万円超となり本則課税
    もしくは
    基準期間の課税売上高が1,000万円以下となり免税事業者

  • STEP4
    基準期間の課税売上高が1,000万円超5,000万円以下に戻った場合は簡易課税が適用

つまり、消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出しない限りは、いったん本則課税が適用されたり、免税事業者になったとしても、再び基準期間の課税売上高が簡易課税で計算するべき金額のゾーンになった場合は、簡易課税が適用されるということです。非常に間違えやすいところなので、注意が必要です。

さいごに

「塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告 第9回」はここまでです。

書き始める段階では、今回で消費税についての記事も終わらせようと思っていたのですが、思わず文字数が多くなってしまい、書きたいことを全て書くことができませんでした。なので、あともう1回だけ、消費税について書きたいと思います。

消費税の最終回はインボイス制度について説明します。今回もお読みいただき、ありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました