みなさん、こんにちは!メイプル会計事務所・南伸一公認会計士税理士事務所のみなみです。「塾・スクール・習い事を個人事業で営んでいる方のための確定申告」のシリーズ第7回です。
前回まで所得税の確定申告について解説してきましたので、今回は消費税の確定申告についても説明しておきたいと思います。
令和5年10月よりインボイス制度もスタートしましたので、塾・スクール・習い事の営んでいる個人事業主の方の中には、消費税の確定申告が必要になった方もいらっしゃるのではないかと思います。
そもそも消費税の仕組みとは?
塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方で、課税事業者に該当する場合は、消費税を納める必要があります。ですが、消費税を負担しているのは個人事業主の方ではなく、お客様である最終消費者です。個人事業主の方は、お客様から預かった消費税を税務署に納めるわけです。
ただし、お客様から預かった消費税の全額を納めるわけではありません。個人事業主の方も、事業を営む上で仕入れや経費が発生しており、その際に消費税を支払っています。
ですから最終的に個人事業主の方は、お客様から預かった消費税から、自身が支払った消費税を差し引いた金額を税務署に納めるというのが、消費税の基本的な仕組みとなります。
消費税を納めなければいけない個人事業主は?
塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方の全員が、消費税を納めることになるわけではありません。
2年前の年間の課税売上高が1,000万円を超える場合に消費税を納める義務が生じます(※1)。逆に言うと、2年前の年間の課税売上高が1,000万円以下の場合は、消費税を納める義務が免除されます。
注意すべき点は、納税義務の有無の判定は、「課税売上高(いわゆる総収入額ベース)」で行うのであり、収入から経費を差し引いた「所得」で行うのではない、という点です。なお、納税義務がある事業者のことを課税事業者といい、納税義務のない事業者(免除されている事業者)のことを免税事業者といいます。
消費税を納める義務があるか、免除されるかの判断の主なポイントは2つあります。
1つめのポイントは、「2年前」という部分です。塾・スクール・習い事を開業した年には、2年前には事業を営んでいませんので課税売上高はゼロです。同様に開業した2年目も、その2年前は事業を営んでいませんので、同じく課税売上高ゼロです。開業して3年目になって初めて2年前(つまり開業した年)の売上高が存在しますので、消費税を納めるか否かを判断する必要が出てきます。逆に言うと、開業1年目と2年目は、2年前の課税売上高はありませんから消費税の納税義務は生じません。
2つめのポイントは、「1,000万円を超える」という部分です。1,000万円を超えたら消費税の納税義務が生じるわけなので、逆に言うと1,000万円を超えない限り、いつまで経っても消費税を納める必要はありません。
塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の場合、まず、開業1年目と2年目は消費税を納める必要はありません。また課税売上高が1,000万円を超えない限りは、消費税を納める必要はありません。
私の感覚ですが、スタッフを雇わずに塾・スクール・習い事を個人事業主1人で営んでいる場合は、1,000万円を超えることはそこまで多くありません。何を教えているかにもよると思いますが、相当頑張らないと1,000万円は超えないと思うので、そのような場合であれば消費税の納税義務はありません。たとえば、教室の運営が軌道に乗り、複数店舗展開しているような場合であれば1,000万円を超えてくることも考えられます。そのようなケースでは、消費税の納税義務が生じます。
(※1) 2年前の年間の課税売上高が1,000万円を超える場合以外にも消費税を納める義務が生じることがあります。詳しくは国税庁のホームページでご確認下さい。
インボイス制度で納税義務者が増えた?
先ほど「2年前の年間の課税売上高が1,000万円を超える場合に消費税を納める義務が生じます」と述べましたが、この部分がインボイス制度で変わりました。
登録申請を行い、インボイス発行事業者になると、2年前の年間の課税売上高が1,000万円を超えない場合にも消費税を納める義務が生じます。インボイス制度施行以前においても、届出を出すことによって、2年前の年間の課税売上高が1,000万円以下であっても課税事業者になることはできたのですが、これは還付を目的とした例外的なケースでした。インボイス制度施行により、これとは違う理由で、多くの免税事業者が課税事業者に変わらざるを得ない事情が生じました。
前述の消費税の仕組みのところで、消費税は預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税額が決まると述べましたが、消費税を差し引くためには支払った相手側から適格請求書(いわゆるインボイス)を取得することが必要となったのです。もし、支払った相手からインボイスを取得できないと、支払った消費税分を差し引くことができない分だけ、納税額が増えてしまうのです。(※2)
ですから、インボイス制度の登録事業者にならなければ取引を止められてしまう可能性が出てくるので、多くの事業者がインボイス発行事業者として登録し、課税事業者になったのです。
(※2)ただし、インボイス制度開始から6年間は、払った消費税のうち一定割合を差し引くことができる経過措置が設けられています。
さて、このインボイス制度に塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方は、どのように臨むべきでしょうか?
インボイス登録を求めてくるのは、商売のお客様が事業者の場合です。商売のお客様が最終消費者であれば、そのお客様はインボイス登録など求めてはきません。なぜなら最終消費者は消費税を納めるなんてことはしませんからね。
塾・スクール・習い事といった商売のお客様は、勉強や資格や技術を学びたいと思っている一般の方々です。ですから、塾やスクールや教室にインボイスの発行を求めてはきませんし、特別な事情がない限りは、インボイス登録は必要ないと思います。
ただし、例外的なケースとして、簿記やパソコンや英会話といったスクールであれば、会社負担で従業員の方を勉強に行かせることがあります。このような場合、会社名義での領収証発行が必要です。インボイス登録していないと取引(つまり、自社の従業員をそのスクールに通わせること)を敬遠されてしまう恐れがあります。よって、法人のお客様が多い場合は、インボイス登録を検討する必要があります。
(※3)少し細かい話ですが、取引先に消費税の課税事業者の法人が多い場合でも、次回ご紹介する「簡易課税制度」という計算方法を取っている場合には、インボイスの発行は要求されません。インボイス発行事業者として登録するべきかどうかの判断のためには、お客様お一人お一人の事情を踏まえ、色々考慮しなければならない点がありますから、詳しくは税理士にお問い合わせください。
さいごに
「塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告 第7回」はここまでとします。今回は消費税の基本とインボイス制度について説明しました。
消費税の確定申告までたどり着けませんでしたが、消費税の確定申告を理解するためには、基本的な仕組みの理解は避けて通れないと思うので、説明させて頂きました。次回も引き続き、消費税の確定申告について説明します。引き続き、よろしくお願いします。