【第10回】塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告

第10回 解説コラム

みなさん、こんにちは!メイプル会計事務所・南伸一公認会計士税理士事務所のみなみです。「塾・スクール・習い事を個人事業で営んでいる方のための確定申告」のシリーズ第10回です。

そしてシリーズ最終回です。最終回は、前回までに詳細をお話しきれなかった部分であるインボイス制度について解説します。

インボイス制度とは?

このシリーズの第7回でもインボイス制度の概要について解説しました。これまで免税事業者だった事業者が、なぜ課税事業者への転換が求められたかを再度、確認してみましょう。

チェックポイント
  • STEP1
    納付する消費税額の計算は売上に係る消費税から仕入や経費に係る消費税を差し引いて計算する
  • STEP2
    インボイス制度によって、仕入や経費に係る消費税を差し引くためにはインボイス(適格請求書)が必要となった
  • STEP3
    多くの事業者が仕入や経費に係る消費税を差し引くために、仕入業者に対してインボイスの発行を求めることになる
  • STEP4
    インボイス(適格請求書)を発行するためには、インボイス発行事業者となるための登録が必要
  • STEP5
    インボイスを発行できるのは、消費税課税事業者に限られる。(免税事業者のままでは、インボイスを発行できない。)

  • STEP6
    インボイス(適格請求書)を発行するために、これまで免税事業者だった事業者も課税事業者にならざるを得ない

という流れです。

塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主はインボイスの発行を求められるか?

インボイス制度施行前は、インボイス制度のことがテレビやインターネットなどを通じてしきりに報道されていましたので、個人事業主の方の中には、とりあえず登録しなきゃ!ということで、登録を急いだ方もいらっしゃるかもしれません。

では、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方は、インボイス発行事業者として登録する必要があるでしょうか?塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方がインボイス発行事業者になるべきか否かは、前述の説明のSTEP3がポイントです。

「仕入業者がインボイスの発行を求めるか」という部分を言い換えると「自社の商品やサービスを購入する側が自社にインボイスの発行を求めるか」となります。

さらにこれを塾・スクール・習い事を営んでいる事業者で考えると、「講義やレッスンを受ける生徒さんが、教室に対してインボイスの発行を求めるか」ということです。

では果たして、生徒さんがインボイスの発行を求めてくるでしょうか?生徒さんは事業者ではなく一般消費者ですから、支払った消費税の還付を受けるなんてことはありません。つまり、生徒さんが教室に対してインボイスの発行を求めてくるケースは、多くないということです。

よって、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方の場合、インボイス発行事業者として登録する必要は、通常ありません。

塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業でもインボイスの発行を求められるケースとは?

しかし、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業でもインボイス制度への登録が求められることもあり得ます。

先ほど、「講義やレッスンを受ける生徒さんが、教室に対してインボイスの発行を求めるか」がポイントと述べました。そこでたとえば、簿記教室やパソコン教室において、当該生徒さんが、仕事上必要な技能を身に付けるために、会社からの指示でスクールに通っている、あるいはオンラインで講座を受講している、というようなケースが考えられます。

このような場合、会社が受講料を負担しますので、その会社が消費税の課税事業者であれば社員の教育訓練に要した経費に係る消費税額を差し引きたいと考えるでしょう。そのようなケースだとインボイスの発行を求められることが想定されます。(注)。

(注)
「発行を求められる」といっても、インボイス発行事業者となるか否かは、各事業者に委ねられており、当然取引先から強制されるものではありません。つまり、「インボイスを発行してほしい」という要望に必ず応えなければならないということはありません。

しかし、取引先が「インボイスを発行してほしい。」と思っている一方で、「うちは登録事業者でないので、インボイスを発行できません。」となれば、取引が打ち切られてしまうリスクはある、ということです。

なお、インボイス制度に関連して、インボイス発行事業者でない取引先との取引について一方的な価格引き下げの要請を行うことは、独占禁止法や下請法上違反とされています。インボイス制度に関する取引先との折衝は、これらの法律に抵触しないよう、気を付けて行わなければなりません。

ここまでのまとめ

以上より、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方がインボイス発行事業者として登録を行うべきか否かは、基本的にはいわゆる法人取引(または、消費税課税事業者である個人事業主との取引)が多いか否かで検討すれば良いということになります。

ただし、取引相手の多くが消費税課税事業者であっても、その相手が前回まででお話した「簡易課税」により消費税の申告をしている場合には、インボイスの発行は求められません。

「簡易課税」で申告・納付を行う場合には、課税売上高の業種区分ごとに、「みなし仕入率」という率を掛けて納付額を計算するため、支払った消費税の実額は納付税額の算定上、関係してこないのです。消費税課税事業者との取引が多い=必ずしもインボイス発行事業者の登録が必要、とはならないということです。

「インボイス発行事業者として登録するかどうか」は、特にこれまで免税事業者だった方にとっては、「消費税の納税義務を負うか否か」ということにもなり、非常に大事な判断となりますが、このように色々な要素を踏まえての検討が必要です。

登録した方が良いかどうかはケースバイケースですので、迷われた方は専門家である税理士にご相談いただくと良いでしょう。

インボイス制度に登録するために必要な書類は?

検討の結果、インボイス発行事業者として登録する決断をした場合は、登録するために必要な書面を税務署に提出することになります。登録するために必要となる書面を、

適格請求書発行事業者の登録申請書

といいます。この申請書の登録の効力は、税務署長が登録をした日から生じることとされています。

「税務署長が登録をした日」は、どのように知り得るかというと「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出後、しばらくしてから「適格請求書発行事業者の登録通知書」という書類が税務署から送られてきます。そこに登録年月日が記載されています。

やっぱりやめたいインボイスと思ったら?

いったんインボイス発行事業者として登録したものの、生徒さんからインボイスを求められることもほとんどないから取りやめたいと思ったら、やはり届け出が必要となります。登録を取りやめるために必要となる書面を、

適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書

といいます。この届出書は、インボイス発行事業者の登録をやめたい課税期間が始まる15日前までに提出しなければならないとされています。つまり、個人事業主の方であれば、登録をやめようとする年の前年12月17日が提出期限となりますが、余裕をもって、たとえば11月末くらいに提出しておければ安心です。

ただし、この届出書には注意点があります。令和6年以降に登録の手続きを行った場合は、登録を受けた日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは、登録を取り消せないことになっています。いわゆる2年縛りといわれるものです。インボイス制度がスタートした令和5年中に登録した場合は、2年縛りはなく当該届出書を提出した翌課税期間から免税事業者に戻ることができます。(※)

(※)
基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、インボイス発行事業者の登録をやめても納税義務が免除されるわけではないので注意が必要です。

取消しに関しても、制度が少々複雑ですので、迷った場合は税理士や税務署に相談されると良いと思います。

さいごに

「塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告 第10回」もこれで終わりです。そして「塾・スクール・習い事を営んでいる方のための確定申告」のシリーズ自体も、今回で終了です。

書き始めるまでは何回まで続くか不安でしたが、書き始めてみたら、次々に書きたいことが出てきて、あっという間に10回まで回を重ねてしまいました。今回のシリーズが、塾・スクール・習い事を営んでいる個人事業主の方のお役に少しで立てれば、うれしい限りです。

10回という長期間にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。

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